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東京・賛育会病院が、「赤ちゃんポスト」と「内密出産」の受け入れを始めると発表した。これは都内初の試みになる。赤ちゃんポストは、生まれたばかりの赤ちゃん(生後4週間以内)を、名前も名乗らずに預けられる仕組み。内密出産は、出産する女性が身元を完全には明かさず、一部の医療スタッフだけに知らせて出産できる制度だ。どちらも、予期せぬ妊娠や孤立出産、そして最悪のケースである嬰児遺棄を防ぐことを目的としている。病院は東京都や墨田区と連携して運営にあたる。この分野で先行してきたのが、熊本市の慈恵病院だ。同院の蓮田健理事長は、今回の賛育会病院の方針に対し、「内密出産の費用を本人に請求するのは残念だ」と率直に批判。理念を大切にすべきだとして、慈恵病院では経済的に厳しい人の出産費用は病院側が負担しているという。ただし、この「理想の姿」にも異論はある。赤ちゃんポストにしても内密出産にしても、母親の身元が不明だったり、経済状況がつかめなかったりするケースが多い。当然、医療費の負担は病院が背負うことになる。それだけでも大変だが、もっと難しいのは「健保未加入」や「生活保護が受けられない」などの在留資格を持たない違法滞在者による出産についてだ。こうなると「医療費は病院持ちで当然」と言い切ることには、社会的にも疑問の声が出てくるのは自然なことだ。ここでは、未成年の予期せぬ妊娠といった別の問題は脇に置いておきたい。
健保料が未払いの人や、生活に困っている人たちには救済策がある。申請すれば健保組合や自治体の補助が出ることもあり、出産費用がゼロになるケースもある。これは病院側が丸損しないための制度でもある。でも、その仕組みにも当てはまらない違法滞在者の出産まで、「赤ちゃんに罪はないから」と無償対応を求めるのは、果たして“正義”なのかどうか。出産する女性を守るべきだという思いに異論はないが、「人権」や「平等」といった言葉が独り歩きして、制度が無限に広がっていけば、今度は「ただ乗り」を許す仕組みになってしまう。その結果、制度を支えている多くの国民の気持ちが離れていくかもしれない。たしかに、こうしたケースにかかる医療費は、全体から見ればごくわずかかもしれない。それでも、「なんだか納得できない」と感じる人が多いのも現実だ。そもそも、この問題の根っこには、入国管理や外国人政策の不備があり、病院や自治体に全部対応を押しつけるのは違う。国がルールを整え、現場を支える仕組みをつくる必要がある。政府も今、法整備に向けて動き始め、海外の事例も調べているという。「困っている人を助けたい」――その気持ちは間違っていない。でも制度がきちんと回ってこそ、本当の意味で“優しさのある社会”は実現できるのではないか。いま必要なのは、感情だけに流されず、理念と現実のバランスをとった冷静な議論だ。