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全国学力テストの中学3年理科で、初めてオンライン方式「CBT(Computer Based Testing)」が導入された。ネットワークの負荷を避けるため、4日間に分散して実施されたこの試みは、政府のGIGAスクール構想で児童生徒に1人1台の端末が配備されたことにより、ようやく可能となったものだ。文部科学省は国際的なCBT普及の流れを意識し、導入に向けて入念に準備を進めてきた。CBTの特徴は、紙のテストでは実現が難しかった出題形式を可能にする点にある。今回の理科テストでは、水道水を電熱線で加熱して蒸留する過程をアニメーションで示したり、ドライアイス中でのマグネシウム燃焼実験を動画で見せたうえで思考を促す設問が出された。国立教育政策研究所の八田和嗣・教育課程研究センター長は「燃焼時の色の変化など、紙の調査ではできなかった出題や解答が可能になった」と話す。
また、CBT化により「項目反応理論(IRT)」を活用できる点も大きい。IRTでは単なる正答数ではなく、正解した問題の難易度に基づいて学力スコアを算出できる。これにより、これまで困難だった「その誤答は児童の学力不足か、それとも問題の難易度のせいか」といった分析が可能になる。さらに、問題の一部を非公開にして継続的に使用すれば、学力の経年変化の分析も行える。CBT導入のメリットはそれだけではない。試験日の分散実施や場所を選ばない受験が可能になり、不登校や病気療養中の児童生徒にも対応しやすくなる。また、問題用紙の保管や解答用紙の回収といった事務負担が軽減され、教員の業務負担も軽くなる。
一方、最近では教育のDX化に対する批判的な見方も増えている。デジタル教材の普及による読解力や集中力の低下、情報検索の容易さが思考の浅さを招くといった懸念、対面交流の減少がコミュニケーション能力に影響するとの指摘がある。北欧やユネスコも教育DXに懐疑的な報告を出しており、スウェーデンでは学力低下や学習格差を背景に紙教材への回帰が進んでいる。ただし、PISAの成績低下の背景には、詰め込みから自由化への教育方針転換や移民の増加といった要素もあり、DX化をすべての原因とするのは無理がある。学力は学習時間に比例して育まれ、その成果は小1から中3までの9年間でようやく表れる。CBTは、学力把握や教材改善のための有効なツールであり、読み書きに困難を抱える子どもたちにとっては、眼鏡や補聴器に匹敵する支援となりうる。学力テストだけでなく、日々の授業の中でも積極的に活用していきたいものである。