石丸新党とリアリズム
2025-06-26


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東京都知事選で注目を集めた石丸伸二氏と、彼が立ち上げた新党「再生の道」。彼らが掲げたのは、「都政に二元代表制を取り戻す」という構造改革のメッセージだった。首長と議会が互いにけん制し合うことで健全な民主主義を機能させる〓〓その理念に異を唱える人はいないだろう。だが、現実の選挙戦では、「二元代表制」という言葉自体がやや遠い存在に映る。有権者の生活感覚と結びつきにくいこの制度論は、どうしても抽象的な印象が強く、「改革の旗印」としては訴求力を欠いてしまうのが実情だ。そもそも、日本の地方自治制度では、首長が政策方針を示し、それを議会が是認していく流れが主流であり、制度上もそれが自然な形とされている。そのため、多数派の議員が首長を支える“首長与党”が形成されるのは、構造的な帰結に近い。だからこそ、議会の形骸化を嘆くだけでは足りない。その「質」をいかに高めていくかが、むしろ問われるべき焦点なのだ。

この文脈で浮上してくるのが、議員報酬や“政治の家業化”にまつわる問題である。都市部では議員の歳費が高く、政務活動費も充実している。一方で、小規模自治体では報酬があまりに低く、担い手不足が深刻化。無投票当選や定数割れも珍しくない。つまり地方政治には、「報われすぎる議員」と「報われなさすぎる議会」という二重構造が同時に存在しているのだ。そんななか、「再生の道」が掲げた「2期8年まで」の任期制限は、政治の新陳代謝を促す象徴的なアイデアだった。だが、それが単なる党内ルールにとどまらず、制度改革として明確に打ち出されていたなら〓〓より多くの有権者の支持を集めていたかもしれない。さらに言えば、議員歳費を「公務員並み」に引き下げ、選挙費用の高騰に歯止めをかける制度改革まで踏み込んでいたら、「政治のリセット」というメッセージにはより強い説得力が生まれていたはずだ。海外に目を向けると、北欧諸国などでは議員報酬が一般公務員並みに抑えられ、選挙費用も公費で手厚く支援されている。資金力に依存せずに政治参加が可能な環境が整っており、これが議会の多様性や市民からの信頼を支える土台となっている。

政治を特権ではなく「公共奉仕」として位置づけ、制度として“身の丈に合った政治”を確立すること。これこそが議会の自律性を回復し、健全な民主主義を実現する近道なのではないか。このような制度設計を参考にすれば、「政治は選ばれた者による既得権の保持ではなく、市民に奉仕する行為である」という感覚が社会に根づいていくだろう。そうした点で、「再生の道」が掲げたビジョンは、“身の丈の政治”を模索するうえでの第一歩だったと評価できる。とりわけ、党内方針として打ち出した「2期8年まで」の任期制限は、政治の新陳代謝を促す意義ある一手だった。メディアが制度自体の歪みに目を向けず、候補者のパーソナリティや言動の断片ばかりが注目される政治報道が続く限り、問題の本質は見落とされたままとなる。現に「再生の道」は、都議選で約40万票を獲得しており、得票数では9名を当選させた国民民主党(約36万票)を上回っている。これは、同党の主張に少なくない共感が寄せられている証左と言えるだろう。「制度論より生活実感へ」──石丸新党が次に掲げるべきメッセージは、まさにそこにある。
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