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「京都が京都でなくなる」。北陸新幹線の京都延伸計画に対し、京都仏教会が放ったこの一言が、今、都市政策と宗教権益というふたつの領域の交差点で波紋を広げている。地下水枯渇、文化財の破壊、景観の喪失、一見もっともらしい主張が並ぶが、専門家の多くは「科学的根拠に乏しい」と首をかしげる。とりわけ仏教会が強調するのは、「地下水への悪影響」だ。だが、国土交通省や鉄道・運輸機構が行った解析によれば、トンネル掘削による地下水位の変動はごく一部で軽微なもの。過去に整備された京都市営地下鉄東西線や「いろは呑龍トンネル」でも、実害は確認されていない。それでも仏教会は「水枯れ」「地盤沈下」といった不安を煽り、環境派や左派勢力と結託して署名活動や街頭キャンペーンを展開し続けている。
この反対運動の背後にあるのは、「宗教法人による既得権の防衛」ではないかという指摘がある。京都仏教会は、市内の一等地に広大な非課税資産を抱え、観光収入の恩恵を受けているにもかかわらず、財務情報の公開義務も外部監査も受けていない。都市開発が進めば、宗教法人への課税強化や財務の透明化といった制度改革への議論が再燃しかねない。仏教会が掲げる「文化と環境の保護」という大義の裏には、自らの資産と影響力を守ろうとする現実的な動機が潜んでいる。この構図は、1980年代に京都市が導入を試みた「古都税」騒動を思い起こさせる。当時、文化財保全のために拝観料に50円を上乗せする「古都保存協力税」に対し、仏教会は「信教の自由の侵害」として猛反発。寺院の一斉拝観停止という“実力行使”に踏み切り、条例はわずか3年で撤回された。だが、当時平均250円だった拝観料は今や500円前後に達し、観光客数も4,000万人から5,200万人へと増加。仮に古都税が導入されていれば、年間26億円の税収が見込めた計算になる。
一方、宗教法人の固定資産税非課税措置も、自治体財政にとっては大きな障壁だ。地方税法第348条により、宗教活動に使用される土地や建物は非課税とされ、自治体が独自に課税することはできない。ただし、駐車場や売店などの営利部分には課税されている。しかし京都のように寺社が密集する都市では、市街地の一等地が大規模に非課税化されており、市の財政構造に歪みをもたらしているのが実情だ。こうした制度的優遇に対しては、近年、「公益性評価制度」の導入や、宗教法人の免税資格を見直す仕組みの必要性が指摘されている。たとえば米国では、非営利団体として免税を受けるには財務公開と政治的中立が求められる。ドイツでは教会税制度のもと、国家と契約を結ぶかたちで制度に組み込まれている。宗教法人が政治的発言やロビー活動を展開しつつ、非課税特権と財務非公開を維持できる日本の構造は、国際的に見てもきわめて特異だ。
京都市は現在、1兆5,000億円を超える市債を抱え、財政再建のために宿泊税や空き家税など、新たな税源確保に奔走している。市内総生産の約2割を観光が占める現状において、北陸新幹線の延伸は、他都市との競争力を維持し、地域経済を活性化させるうえでも重要なインフラ投資だ。しかし京都仏教会は、文化財や景観保護の名のもとに開発に反対し続け、都市政策における“ブレーキ役”として影響力を行使している。「京都の未来を守る」と語るその主張は、果たして市民の暮らしや都市の持続可能性を見据えたものなのか。それとも、自らの聖域と特権を守る「坊主丸儲け」の延長にすぎないのか。今、問われているのは地下の掘削ではなく、宗教法人制度の透明性と、都市としての京都の持続可能性である。宗教界が政治に口を出して世相を混乱させるのは、応仁の乱以来の京都の“戦前からの伝統”だと看過してよいはずはない。