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家電量販店というのは、つくづく不思議な場所である。平日の昼下がり、あの広大な売り場に入ると、まずは圧倒的な物量に気圧される。冷蔵庫や洗濯機がずらりと並ぶ中、歩いている人間といえば炊飯器のフタを熱心に開閉しているおじさん一人。日によっては客より店員のほうが多く、「今日の売上は乾電池のパック一つではないか」と余計な心配をしてしまう。しかし店が潰れる気配は全くない。それどころか、業界最大手のヤマダホールディングスとエディオンが経営統合を発表した。売上合計は二兆五千億円規模に達し、他社を圧倒する巨大グループが誕生するという。こちらののんびりした生活実感と、彼らの弾き出す経済規模がまるで噛み合わないのだ。
理由を探ってみると、家電量販店はどうやら“家電を売るだけの店”ではないらしい。あの広大なフロアは、メーカー同士が血で血を洗う「陣取り合戦の舞台」なのだ。自社製品を入口近くに置きたい、競合より広い棚を確保したい。そのために水面下では莫大な販促費が飛び交い、応援の販売員が派遣される。客がのんびり値札を眺めているその横で、「うちの六十五インチをもう一列増やしてくれ」という静かな戦争が続いている。テレビ売り場は一見のどかだが、メーカーの営業担当者から見れば、そこは生き残りをかけた現代の関ヶ原なのだ。今回の統合も、この陣取り合戦での調達力やメーカーへの交渉力をさらに強めるための巨大な布石に他ならない。
しかも家電は一発の単価が大きい。冷蔵庫が二十万円、洗濯機が三十万円。客が十人来て一人買えば十分にビジネスが成立する世界であり、魚屋のように「へい毎度!」を百回繰り返す必要はない。さらに面白いのは、主役の本体よりも「周辺の脇役」が利益を支えている点だ。延長保証、設置工事、リサイクル回収、高価格なケーブルに転倒防止器具。映画館がチケット代ではなくポップコーンで儲けているように、家電量販店もまた、主役がスポットライトを浴びている陰で、粗利益率の高い脇役たちがせっせと純利益を稼ぎ出している。乾電池がレジ横に積まれているのも、あれはあれで立派な“脇役の稼ぎ頭”なのだ。
最近は、客が店で実物を確認し、その場でスマホを操作して最安値のネット通販で買う「ショールーム化」が定着した。しかし量販店側は案外平然としている。「どうぞ触ってください」と、達観した僧侶のような顔で微笑んでいる。客が商品に興味を持つこと自体がメーカーの価値であり、量販店はその「舞台」を提供するだけで場所代を得られるからだ。おまけに最近は、スマホで調べている客をすかさず自社のネット通販や公式アプリへ誘導する仕掛けも整えている。ネットで買われようが、最終的に自社の網に引っかかればそれでいいのだ。
そうなると、勝負を決めるのはやはり「規模」になる。全国の店舗網、物流網、工事業者との連携、メーカーへの交渉力。これは「どれだけ巨大なビジネスの網を張れるか」という総力戦なのだ。だから平日の売り場がガラガラでも慌てる必要はない。あの静まり返ったフロアは、水面下で足を猛烈に動かしている白鳥のようなものだ。冷蔵庫の陰ではメーカーが領土を争い、裏では工事会社が走り、物流網がうなっている。こちらには暇そうに見えるが、向こうは息が切れるほど忙しい。本当に暇なのは、「大丈夫か」と勝手にハラハラしている客のほうなのだ。