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奈良市にある東大寺学園が、教師36人に対して残業代や休日出勤手当約130万円を支払わなかったとして、校長や事務局長など3名が労働基準法違反の疑いで書類送検された。同学園は2021年12月にも同様の問題で是正勧告を受けていたが、その後の奈良労働基準監督署の調査で、勧告後も手当の未払いが続いていることが発覚した。この問題に関し、学園側は「慣習的に厳格な管理ができていなかった」と説明しているが、不適切な管理体制の改善が行われないまま今回の立件に至った。教育現場での労働環境が社会的に注視される中、東大寺学園のような著名校でこのような問題が再発することは看過できない。労働基準法の遵守は当然の義務であり、早急な是正が求められるとともに、透明性を持った運営が期待されると報道された。東大寺学園は、私立の男子中高一貫校で、東大寺を経営母体として100年の歴史を持つ。学園は高い学力を誇り、特に理数系に強い生徒が多く、東京大学や京都大学、国公立の医学部への進学実績で有名である。部活動も盛んで、全国大会に出場するなど、幅広い活動が行われている。進学率や部活動の実績が全国屈指の東大寺学園に優秀な生徒が集まるのは自明の理であり、それに対応する教員も質の高い人材が集められていると考えられる。東大寺学園の高校教員の平均年収は推計750万円程度とされ、公立高校教員の1割増しと推定される。公立校の残業代は調整手当の中に含まれ、基本給の4%に固定されているが、東大寺学園などの私学の場合、時間給換算で手当を支給する学校もある。今回は、その手当が満額支払われなかったことから、労働基準監督署の告発を受け刑事事件へと発展した。
私学には部活動に外部指導者を雇う選択肢もあるが、すべての部活動に導入すれば予算が圧迫されるため、雇用契約時に部活動指導を業務内容として含む教員も少なくないと考えられる。トップ校では進学実績や大会成績が学校の評価に直結するため、教員に対する期待も高くなる。進学や入賞を学校の「売り」にしている私学であればなおさらである。東大寺学園の授業料は年間80万円であり、私学助成金の補助額51万円を大きく上回る。奈良県では、世帯年収910万円未満の世帯を対象に、私立高校の授業料を年間63万円を上限に公費で負担するため、自己負担額は約20万円となる。私学において残業代を支払い人件費を上げると、当然ながら授業料に影響が及ぶ。さらに、仕事内容と給与のバランスが崩れれば、教員の確保も困難になる可能性がある。こうした状況を考慮すると、今後も私学の学費値上げは続くと予想される。しかし、無償化の補助額を引き上げることには限界があり、その差額支払いの影響を受けるのは主に低所得家庭である。高所得家庭にとっては、これまで支払ってきた授業料の範囲内であれば大した負担ではない。そして、私学の学費上昇により結局教育格差が拡大し、公立校が競争力を失い、統廃合が進む可能性も否定できない。返す返す維新のかかげた私立高校一律無償化は公益に値しない、思慮ない政策だと思う。